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鹿児島家庭裁判所 昭和43年(家)603号 審判 1968年9月16日

申立人 荒川春夫(仮名) 外二名

相手方 荒川秋子(仮名) 外二名

主文

一  被相続人荒川徳茂の遺産中、別紙目録(4)及び(5)の宅地は、この審判確定の日から五年間当事者間において分割することを禁ずる。

二  本件手続費用中、鑑定に要した費用六五、〇〇〇円はこれを六分し、その一づつを各当事者の負担とし、鑑定費用を除くその余の手続費用は各自の負担とする。

理由

(イ)  申立人荒川春夫、同作田ミキ、同荒川隆司は、荒川徳茂が昭和三九年八月七日死亡し、同人の遺産について相続が開始、同人の子である申立人等及び相手方荒川秋子、同荒川重幸、同荒川浜子並びに亡徳茂の妻荒川サチが相続人となつたが、上記当事者間において遺産分割の協議が調わないため、昭和三九年八月一四日遺産分割調停の申立をなした。そこで、当裁判所調停委員会において調停を進めつつあつたところ、昭和四一年六月二七日相続人の一人である相手方サチが死亡し、同人の遺産につき相続が開始し、同人の子である申立人等及び相手方等が相続人となつたので、さらに調停期日を重ねたが、当事者間に合意成立をみるに至らなかつた。もつとも、調査の結果によれば、本件遺産中、別紙目録記載(1)ないし(3)、(6)及び(7)の土地については、調停手続外において当事者間に、該土地を売却し、その代金を平等に配分する旨の遺産分割協議が成立したこと、右協議の実行により(1)ないし(3)の土地の売却代金の配分として当事者各自が一人約八四万円の現金を取得ずみであり、(6)及び(7)の土地についても、近い将来同様の方法で分割すべきものであることが認められる。それゆえ、当事者間に合意が成立しないものとして、審判による分割を求める遺産は、結局別紙日録(4)及び(5)の宅地のみであつて、本件は、その限度においてのみ審判分割の利益を有する。

(ロ)  しかしながら、遺産中最も経済的価値を有すると認められる前記(4)及び(5)の宅地については、被相続人が生存中の昭和三九年五月四日、相手方浜子を借主、被相続人を保証人とし申立外鹿児島市○○農業協同組合を貸主とする金融取引並びに根抵当権設定契約に基づき根抵当権(極度額二四〇万円)が設定され、相手方浜子は合計一九四万円の貸付をうけ、現在なお一〇六万円の債務を負担していること、又(4)の宅地上に存する相手方秋子名義の建物(木造瓦葺平家建店舗兼居宅一棟建坪一五四・九七平方メートルほか一棟)につき前記秋子及び相手方重幸間に所有権の帰属をめぐつて民事訴訟が係属中であることが認められるところ、本件遺産は、債務者たる相手方浜子本人の弁済又は他の相続人の代位弁済によつて抵当権の負担が消滅し、かつ(4)の地上建物の帰属に関する民事紛争が解決を見るまでは、とうてい適正な分割をなすに適さない状態であることは明らかである。それゆえ、これらの分割障害が消滅除去されるまでの期間、本件遺産分割はこれを禁止すべきである。しかして、その期間は、相手方浜子の○○農業協同組合に対して有する未償還債務の額その他諸般の事情を考慮して、この審判確定の日からいちおう五年間と定めるのを相当とする。

よつて、民法九〇七条三項、家事審判法九条一項乙類一〇号により主文のとおり審判する。

(家事審判官 橋本享典)

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